小さな背中の主役

岩手県に住んでいる母の弟から電話があったらしい。

祖父が亡くなって30年以上は経つなと昔話しをしていたようだ。

この話しを聞いて思い出した事がある。

祖父が体調を崩して入院したのだが、もう長くないようだと連絡が入った。

娘である母は連絡があった翌々日に岩手県へ向かった。

私は仕事の関係で3日程後に父親と一緒に私が運転する車で行く事になった。

24:00頃出航するフェリ-に乗船する為に苫小牧港へ車を走らせた。

乗船手続きを済ませた私は父親に乗船方法を説明した。

「車に運転手以外の人を乗せて乗船できないから、父さんは2階の旅客乗船口から歩道橋を歩いて船に乗って。そして二等室に行ったら2人分の寝るスペ-スを確保しておいて。」

と言うと

「おっおう大丈夫だ任せておけ」

と父親は言ったのだが、顔をみると不安なのが手に取るようにわかった。

「頼むよ」

と言って私は駐車場へ行き乗船する為に車内で待っていると、歩道橋の窓から父親が私の車を見ているではないか。

「乗船して場所取りしなさいって言ったのに何やってるんだか、と思いながら笑ってしまった。まあ予想通りだ」

車の乗船が終わり二等室へ行ってみると、せま~いスペ-スにちょこんと座っている背中がやけに小さく見える父がいた」

やっぱりこうなってるのね(笑)仕方がないよな慣れてないし、説明した時の顔を見た時にこうなると予想していた事だ。

私は父親さえ二等室で寝られれば、自分はレストラン(今はレストランはないようです)近くに毛布を敷いて寝ようと思っていたので

「父さんここに寝てな、俺はレストラン横のスペ-スに毛布敷いて寝るから」

と言ってその場を離れようとしたが

「大丈夫だ二人寝られるだろう」

と父親言ってきた。

どうやら、この場所に一人で寝る事も不安なようだ。

確かに寝られるかも知れないがちょっと窮屈そうだったので考えていると

「私達別な所に場所がとれたのでここ使って下さい」

と一人のご婦人が場所を譲ってくれた。

このご婦人のお陰で二が人寝るには余裕のスペ-スができた。

父は、さも自分の手柄のように笑顔で私を見ているが、そうではない。

いや、場所を譲ってくれたご婦人は父の言動を可哀そうに思っての事だったのかも知れない。

そうだとしたら父のお手柄なのかも知れないと笑いを堪えた。

ご婦人に感謝しつつ就寝。

朝になり私は風呂に入り

「朝食行くよ!」

と父に言うと

船酔いしたらしくぐったりしていた。

乗船から下船まで主役は父だったようだ。