22時を少し過ぎた6月中旬の高速道路のサービスエリア。
その場所からは海を見下ろす事ができる。
これがなかなかの絶景である。
この景色を眺めていた一組の熟年カップルがいた。
パ-キングには1台の車があるだけ。
サービスエリアの照明から少し外れた場所で二人は夜景を眺めていた。
この二人はどうやら夫婦のようだ。
「二人でこんな夜景を見るのは何年ぶりかしら 子供たちが成人するまでは二人なんてなかったわね」
「夜景なんか見た事あったか?」
「あるわよ 付き合っていた頃ね。 貴方 連れて行ってくれたじゃない。
どうせ覚えていないでしょうけどね。」
と言いながら妻は笑っていた。
そんな妻の顔を横目で見ながら夫は照れくさそうに
「覚えているさ・・・」
と小声で言った。
外には二人だけ。
小声でも妻にはしっかりと聞こえていたはずだ。
妻は夫との距離を詰めると夫の腕を自分の腰の位置に引っ張った。
普段は鈍感な夫も空気を読んだのか そっと引き寄せた。
笑顔の妻、もちろん夫も。
この時の妻は、夜景よりも夫の「覚えているさ」の言葉が嬉しかったようだ。